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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2845号 判決

理由

本件に対する当裁判所の認定判断は、以下に訂正、付加するほか、原判決理由の説示するところと同一であつて、控訴人の請求は理由がないと認めるものである。

一  原判決一八丁裏九行目の「一四四七万円」を「一八九七万円」と改める。

二  土地所有権喪失による損害の主張について。

1  控訴人が、丙地を含む甲地の佐久間佑生からの買受について、所有権取得登記を経由していなかつたことは前記(原判示)のところから明らかであるから、控訴人は、その所有権取得を第三者(成沢喜三郎ら配当要求債権者を含む。)に対抗できなかつたものである。したがつて、執行裁判所(金子裁判官)が丙地12の物件が債務者佐久間佑生の所有(責任財産)に属するとの前提で競売手続を進めたことはその限りで正当であり、その競落許可決定により控訴人主張の所有権が侵害されたということにはならず、佐久間と控訴人との間で債務不履行等の問題が生ずるだけである。

控訴人が右物件につきしていた処分禁止仮処分の登記が所有権取得登記に匹敵するとの控訴人の主張は、独自の見解であつて、採用に値しない。もつとも一般に、処分禁止仮処分債権者が強制執行を阻止(第三者異議)できるかは別問題で、この点については諸種の見解があるが、判例に従い、これを積極に解した場合でも、前記(原判示)初田修の競売申立記入登記が控訴人の仮処分登記に先行するから、控訴人はその競売を阻止できず(この点、控訴人も自認する。)、また配当要求債権者は独自の執行をする者ではないから、これにつき執行阻止の観念を容れる余地はなく、配当についての問題が生ずるにすぎない(この点後記)。

なお、控訴人は、最小限、利害関係人として競売手続内において、異議、抗告等はできる理であるが(その正否は別とする。)、控訴人がこれをしたことについては、なんらの主張立証もない。

そうすると、以上の限度では、そもそも控訴人主張のような所有権侵害は存在しないというべきである。

2  控訴人の主張には、執行裁判所は職権をもつても控訴人の仮処分登記に遅れる成沢らの配当要求を許すべきでなく、そうとすれば丙12の物件についての競売は過剰競売として違法となり、この点を控訴人が主張するには、対抗要件たる所有権取得登記を経由する必要はないとの見解を含むものと解される。

右の点についての当裁判所の判断は、原判示のとおりであつて、わが民訴法のとる平等主義の建前から、ある債権者の申立によつて適法に行われる競売に、他の債権者は競落期日の終りまで配当要求をすることができ(民訴法六四六条。ほかに、競落許可までは記録添付による競売申立もできる。)、ただ、競売物件につき譲渡を受けた第三者が所有権取得登記を具備(このこと自体は、効力の限度は別として、可能である。)したのちにおいては、右の行為をすることは許されないと解するものである。そして、処分禁止仮処分は、所有権取得登記のような対抗要件具備の効力はないから、その前後により右配当要求の効力を左右すべきものではないと解すべきである。なお、かく解しても、処分禁止仮処分は、先行の競売が取消された場合にはその効力を発揮するから、それが無意味になるということはない。

したがつて、前記執行裁判所のした競落許可決定には、控訴人主張のような違法はなく、この点からいつても、控訴人主張の土地所有権喪失による損害賠償の請求は理由がない。

三  違法配当による損害の主張について。

右主張は、理論上、競落許可が一応適法であることを前提とすると解されるが、前段で認定判断したところから、執行裁判所(石崎裁判官)が成沢ら配当要求債権者に配当したことに違法の存しないことは明らかである。なお、付言するに、控訴人は、債務者に代位して成沢らに対する配当に異議を申し立てることができたわけであるが(その正否は別とする。)、これをした形跡は本件記録上うかがうことができず、ただ、いつたん配当禁止仮処分を得たがこれをも取下げたこと、その後において本件配当が行われたことが、弁論の全趣旨でうかがわれる。

以上のとおりであるから、前記配当は正当であつて、控訴人の違法配当による損害賠償の請求もまた理由がない。よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却

(裁判長裁判官 瀬戸正二 裁判官 小堀勇 小川克介)

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